2023年10月アーカイブ

国内に新車で買える2スト車(公道走行用)は絶滅していますが、海外向けにはあるようです。
TS185がそれですが、外観はハスラーの125と250の間のように見えます。1977年型から生産を続けていて、南米向けのみ販売されているらしく近年の排ガス規制などが無縁の仕向け地なのでしょう。
この車両の存在を知ったのは、お客さんからのメールでチャンバーをオリジナル製作して換装したいという依頼が何件も届いていましたが、多忙を理由に受注する返事はしたことがありませんでした。

ところが、今回は半年ほど前から問い合わせをいただいていたお客さんから再三の問い合わせで
空返事していたのが正式な約束と取られたみたいで車体をお持ち込みになられたため
預かりスペースが少ないので早急にチャンバー製作することにします。

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車体色も塗り替えられ、カスタムしていく方向を説明され、こちらでエキゾースト部分だけ作ることになったのですが
アメリカの方で2ストトレール車をダートトラック専用車に改造したものがあり、その写真が見本として提示されたのですが
その写真の車種も車体もTS185とは別の物であることから
当然完成品もなくスペックも不明な状態からの新造となります。

先ずはエキパイの形状から決めていくのですが膨らましパイプのカーブが想定通りに出来ませんので1本目は曲げカーブのデータ取りにして2本目に着手しております。

この製法真似して作られる方の多くは狙った形状にするのが困難で諦めてしまうらしいですが
私がやっても初めての物は一回で完成できず、やり直しているんです。
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上のエキパイが曲げカーブが下向きで失敗したので、切断面が2?ほど上向きになるようにやり直したものです。

このエキパイに合わせて輪切りのテーパーパイプを作ってレイアウト検討です。

理想的な形状ではないですが予算に限りがあると思うで、このパイプを切り開いて
展開図とします。
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この展開図を画張りにして鉄板に罫書いて作っていきます。

ワンオフの場合でも、二度と使いませんが
製造上このプロセスが必要です。

僕が本田技研狭山工場時代に先輩社員だった星好さん。
所属は共に製品技術室、完成車技術課。僕は強度グループ担当、星さんはロードモデルのテスト担当。
埼玉製作所の2輪組み立て移管に伴い人事異動があって、星さんは朝霞研究所へ栄転されていきました。
その後の実績は機密保持を重視する職業なので一切情報がなかったですが、久しぶりにyoutubeでお姿を拝見することができました。



現在のmotoGP最速マシンを生産するドカティが星さんの特許を参考文献に挙げているというウイングレット。通常経験することのできない2輪の空力特性に関わる開発テストが星さんたちの研究グループで数々の試作品を作っては栃木PGで実走確認を行った様子が頭の中で想像できるお話です。

ダウンフォースがフロントタイヤに設置荷重を与えると同時に車体をリーンさせる重さが増加してハンドリングを悪化させる。一般道で運転するかぎり全く体験することのない現象ですが、レースを観戦するお客さんの立場では、このような開発競争もレース結果に影響することを思うと、ただ漠然とカウリングの形状を見ているより機能的な美しさを感じることができて、より楽しめるかなと思いました。

修理作業の前に国際A級ライダーほどの人が損傷したマフラーを新しい物に取り換えずに
修理して使うのか。
直接聞いてみないと分かりませんが、現役のライダーは練習車を複数持っています。
パーツ代にお金を掛けるのは本番車だけなので、練習用は最も安価な方法で直すということでしょう。

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ミドルパイプが曲がっていた方のマフラーから、
潰れた部分を切断して形状を丸く整えてから溶接修理する方法です。


パイプの中に差し込める鉄の丸棒を入れて
ハンマーで叩き出します。
段階的に丸棒の径を大きいものに変えながら凹みを広げていきます。




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最終的にパイプの内径に合った棒が入るように整形できたら叩き出しは完了です。

この状態では接合面は板材が伸びているので切断面をサンダーで整えてから溶接します。









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取り付け不良にならないように
車体に取り付けて切断面を仮止めしてから
本溶接になります。

元通りにはなりませんが、実用には問題ない程度に直っているでしょう。










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次にフロントエンドが外れて、パンチングが折れていた方です。

歪んだ破断面を整えてから溶接ですが
巻いたパンチングメタルの合わせ面の接合されてないことがパイプの強度が低い原因なので、合わせ面も溶接追加しておきます。








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フロントエンドとミドルパイプは中の溶接が剥がれて分離していたので
表側からの溶接に変更します。

隙間が3mmほど空いているので溶接棒で隙間を埋めながらの作業で少し手間が増えます。

隙間全周肉盛りできたので、元の接合より
強くなっているはずです。






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マウントボルト締め付け座面の端から亀裂のあったマウントステーは溶接しましたが
このままでは溶接ビードがボルト座面に乗り上げて密着できないので
緩みの原因になりますので、平滑に削ります。

3mmの板2枚が拝み合わせになっている
ところを溶接して一枚板のようにします。
表一枚の歪みを裏側の一枚がバックアップする目的です。

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さらに、亀裂が発生する部分は応力が高いはずなので
応力を下げる方法は断面積をアップすればよいのです。

ここでは亀裂が入るステーの後ろ側に板を溶接追加して断面積アップにしておきました。

これで亀裂対策は万全です。





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もう一つ、リヤフォークのチェーンスライダー取り付け用の5mmタッピングが舐めてしまいリベットナットで補修されていた部分。
リベットナットがビスと共廻りして締め付け不可能になっていました。

5mmネジ穴の修復です。

雌ネジのせん断強度は鉄であればネジの呼び径の半分でよいのですが
アルミは3倍のネジ長さが必要なので
5mmの半分×3は7.5mmです。
フォークの板厚は推定3mmなので強く締め付けるとネジ山がせん断するはずなので
適切な締め付けが必要になります。

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ナットリベットを削り落とした穴に
10mm長さのカラーを溶接して?5タッピング穴を作ります。

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ボルト締め付け座面を平坦に削ってネジ穴修復完了です。

上下2か所の施工でした。

以上4部品の修理で大体1日作業費やしましたが、全部新品交換と比較すると
10分の1くらいの費用で収まったのではないでしょうか。



ときどき、予定外の業務が発生して計画どおりに仕事が進まない理由になります。

最強ミニモトKX112のサポート分でサイレンサーのアルミパイプに亀裂が発生することが判り
対策のため補強パッチを追加しました。

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IA2ゼッケン#9鴨田選手に実走テスト兼ねてサポートさせていただいたチャンバーとサイレンサーでしたが
サイレンサーのパイプ部分のステー前側を起点に亀裂が発生し破損に至る不具合を
確認しました。

KX85シリーズ共通のチャンバーマウント方式で上側1か所のラバーマウントしか止めてなくて、サイレンサー側に2点のマウントステーが付いています。
そのためパイプ側ステーの端に応力が集中しているのが明らかで応力分散の目的で
補強パッチを追加しました。

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モトクロスで大きいジャンプの着地など
上下方向のGによって車体やテールパイプなどがしなり、厚板のステーを溶接してある
前側1点に高い応力が発生することは
計測しなくても想像がつきました。

しかし実際どれくらいの寿命で破損するかは実走してみないと分からないところなので
今回結果が出ましたから改修を実施しました。

以降の生産分はパッチ取り付け仕様としております。
過去のデリバリー分も希望者がありましたら
無償で追加させていただきますので、ご連
絡ください。


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いろいろマフラーなどの修理が入ってきます。
全部国際A級ライダー様の練習用だということです。
直接頼まれる場合だけでなく
近隣のショップさんから来ることもあります。

溶接や板金の技術を持っている業者さんは大勢おられると思いますが
モトクロス用の修理となると、ここへ持ってくるのが話が早いのだと思います。

損傷の状態が様々で修理方法もその都度
考えなくてならないのです。
唯、ポリシーとしては外観は勿論良好に
元の強度よりアップさせる方法を採る、ということです。割れたところ付けただけだと同じように割れることは確実で、しかも最初の亀裂より短時間で再発することになるでしょう。だから元より強くしておく必要があります。

IMG_2087.JPG全部ではないですが
少し状態を見てみましょう。

転倒してマフラーが捻られたのでしょう
根本の潰れが酷いですね。

これの直し方は後で説明します。









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もう1本はサイレンサーのフロントエンドとミドルパイプが完全に離れています。
パンチングも中で折れていました。

転倒などの外力でなく振動による亀裂が発生したものと思われます。

これも後で修理方法説明します。







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取り付けポルトの下側に亀裂が発生しています。
破断する前に発見できる眼力はさすがです。
脱落すると大きな損傷になるので
これなら少ない作業で済みます。

唯亀裂を溶接するだけでは元の強度より
劣るわけですから
こういう場合の補強の一例も示したいと思います。