メタルガスケット

ここに無限ヘッド(CR125R)があります。ヘッドガスケットが廃番になっていて、代替のガスケットを作る必要がでてきました。

CIMG2699.JPGホーリーさんとこでシリンダーに傷がついた無限をスリーブキットで再生したのですが銅板ガスケットが圧縮漏れでよくないと聞いて

お節介に「水冷ヘッドにはバネ鋼のガスケットが良いでしょう」と提案してしまった責任を取るためにメタルガスケットを作る役を請け負うことになりました。

昔、ボアアップで純正のメタルガスケットのボアを拡大したことはありましたが、材料から新造した経験はありません。

これは自己啓発として就業後に少しずつ進めますので作業日誌は後日アップいたします。

87年型CR125の純正ガスケットも見本としてお借りしていますが、材質はアスベストです。アスベストは耐熱性が高く、弾力もあるので高温での気密性に富んでいると思われます。

ヘッドガスケットに必要な性能は高温でもバネのような弾性をもっていることです。

シリンダーヘッドはM8のスタッドボルトで締め付けられますが、この締め付け荷重はどれくらいのものかといいますと

エンジン関係に使用されるボルトは100kg級の強力ボルトです。材質はSCM400(旧435)で、めっき可能な最高強度のボルトになります。めっき後のベーキング(水素脆性除去処理)が必須です。

足回りに使われるボルトは120kg級ですが、高負荷で亀裂を防止するため、めっき処理は不可で通常は耐食性にすぐれたダクロコートを施します。

100kg級の意味はmm2あたりの引張り強度が100kgということで、強度区分で10Tと表記されます。80kg級は8T、以下7T、6Tという具合に材質と熱処理の違いで強度を設定しています。

ではヘッドのスタッドボルトはM8ですから有効断面積(ねじの呼び径ではなく、ねじ底の断面積)は36.6mm2で引張り強度3400kgですがこれは垂直に引っ張ったときの破断荷重なので、ねじの締め付けでは耐力2894kgで考えます。

耐力というのはボルトを締め付けたときの軸力と伸び(またはトルク)線図で直線で表す領域(弾性域)から0.2%軸力が下がった点(降伏点)を耐力と定めています。

実際の締め付けでは降伏点を越えるとボルトが永久伸びを起こしてしまいますので、降伏点直前がボルトの限界になります。ボルトの規定トルクは、降伏点に達しない上限と緩みが発生しない下限値が指定されています。何故規定トルクに幅があるかというと、締め付け座面やネジの状態でμ(摩擦係数)が違うために軸力がばらつくためです。締め付け作業はトルクレンチを用いたとしても締め方によって軸力が変わります。レンチを締めるスピードや回数で、同じ目盛りでも軸力が変動します。

ネジ山や座面が滑っている状態を動摩擦、止まった状態から再度締めるときは静摩擦と呼び、静摩擦の方がボルトを回転させるのに大きなトルクが必要になります。締めすぎたボルトを緩めるときに大きなトルクが必要なのは、このためです。

話を元に戻します。スタッドボルト1本あたり2800kgの締め付け力とすると6本で16.8トンの荷重がヘッド面に掛かっていることになります。この荷重に耐えられる硬さのガスケットが必要と考え、バネ材を仕入れましたが、純正部品の材料は一般の鋼材屋で扱ってないことから、それに近い性質のステンレスを選定しました。

CIMG2701.JPG

これからガスケットの加工に入りますが、これくらいの形状ですと図面を書いてレーザー加工を頼んだ方が安上がりで加工精度もよいと思いますが、ここでは手持ちの加工機でどこまで出来るか試してみたいと思います。

使用する道具は板金ハサミ、ボール盤、旋盤くらいです。

最初はスタッド穴基準とするため穴位置を割り出してマスター板を作って下穴を空けていきます。

 

CIMG2702.JPG

ステンレス板にスタッド穴を空けておきます。

スタッド穴基準でセンターと外周を旋盤加工するための加工治具はこのとおりです。

ステンレス板の外形は板金ハサミで荒く切っておきます。これら6枚を重ねてフランジにボルト締めして加工を行います。

フランジで挟むことによって薄板の剛性があがってバリの少ない切削面に仕上がります。

 

CIMG2703.JPG

旋盤で外径φ101、内径φ55に加工しました。

思ったとおりバネ材は硬いです。

超硬チップで切削しますが刃物の消耗が早いです。

下穴はハイス(高速度鋼)のドリルを使うので、重ねて穴空け加工は困難です。

 

 

 

 

CIMG2704.JPG右がノーマルのヘッドガスケットでスタッド穴が5個です。

ウォーターラインを同等にするための見本です。

排気側の長穴を空けるのにフライス加工だと材料が硬いのでエンドミルが割れて全部ダメになることを恐れ、地道にドリルで下穴を開けました。

穴が繋がったところで、切り残した部分はヤスリで手仕上げすることにします。

アルミホイールやメッキシリンダーなどバリが出る製品は量産でも手仕上げでバリ取りするものですから、手仕上げは立派な加工工程なのです。敢えてハイテクを使わないでハンドワークで処理することが我社の物作りの原則です。

 

CIMG2706.JPG加工終了です。6枚セット取れました。

加工治具は使い捨てになります。

量産のメタルガスケットはウェーブ加工されており、穴の周囲を囲むように凸の部分が当たって密着するようになっているのでバネ材が必要なのでした。

しかし、これは平面で密着させる構造なので、シリンダーヘッドの平坦度とヘッドナットの締め付け力が成功のKEYであると考えられます。 

 

 

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