KDX220SR

2ストトレールは健在です。これは公道バージョン、オンロードタイヤでフロントインチダウンされています。

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外装も丁寧にカスタムされていて、大事に乗られていることが分りますが

94モデルなので登録から17年経過していて、走行距離は5万キロくらいだそうです。

さすがに、このまま乗り続けるのは不安だということでエンジンOHすることになりました。

社外のチャンバーも激しく凹んでいます。これはオーナーがヤフオクで凹んだ状態のものを安く落札したそうですが、普通は社外品の修理はお引き受けしません。それは、マフラーメーカーか販売店が対応すべき仕事だと考えていますので、私が社外品を使い続けるために救済する必要は無いと思っているからです。

トヨタの販売店にホンダ車の修理を頼むようなものですからね。そうは言っても、こちらのお客さんが、この車両を総合的に直したいと依頼してこられているわけですから、その一環としてチャンバーの修理も行います。

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リヤショックはオイル漏れの上、バンプラバーもウレタンが崩れて無くなっています。ショックもOHして機能回復しなければなりません。

チャンバーはエキパイ部分から全体に潰れていて、まともな状態ではありません。ここまで潰れていると商品価値はゼロだと思うのですが、ヤフオクではこのようなものに5千円の値段をつける人がいるそうです。明らかにスクラップであることを付け加えておきます。

 

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オイル漏れの激しいエンジン。シリンダーベースにコーキングが見られますが、ガスケットが吹き抜けていることが予想されます。

さすがに5万キロのダメージが蓄積されているのでしょう。

これから全バラして修復することにします。

 

 

 

 

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排気デバイス、KIPSの部品です。

遠心ガバナーにより駆動される可変ポートタイミング機構です。ラック&ピニオンで中央のスライドバルブと左右の回転式バルブが低速域と高速域の排気ポートタイミングを変化させて、幅広いパワーバンドを稼ぎ出します。

しかし、その部品点数の多さは4ストロークエンジンの動弁系より多く感じられ、メンテナンスの工数も、こちらの方が上です。

 

 

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エンジン部品全部。ばらすだけでなく、相当な汚れが付着しているので、全部洗浄してからメンテナンスに入るので非常に時間がかかります。

汚れが付着していると、小さい傷や磨耗の状態が判断できませんので、整備の方針を決めていく上で重要な工程です。

こうして、交換部品のリストアップが可能になります。

従って正確な見積もりはこの段階以降でないと分りません。

 

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エンジン整備には夏でも石油ストーブを使います。

ベアリングの交換にはケースを熱膨張させて、脱着します。これはケースにダメージを与えない方法で

プレス機を使った圧入では圧入面がかじって、小さい傷がつきます。そのため折角、真円に加工された穴やベアリングが偏芯してしまうので、それを防止します。

10分くらいの加熱で120度前後に加熱します。緩んだケースにベアリングは自重で落とします。

その後、常温に冷えれば圧入完了です。ボールベアリングにはエンジンオイル(2ストオイル)を塗布しておきます。グリースを封入する人がいますが、間違いです。オイルは常に供給されてくるもので、グリースがオイルの潤滑を遮ったり、高速回転に不利だと考えられます。

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部品の加工精度を組み立てによって向上させることはできませんが

組み立て方によって駄目にすることは可能ですので、誰がやっても同じ結果にならないことがエンジンメンテナンスの面白いところでしょう。

 

 

 

 

 

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オイル漏れとバンプラバーが失われていたショックの修理です。

リヤショックのOHは20年前からやっていましたが、当時は構成部品の入手が困難で、(輸出向けのパーツリストには載っていますが閲覧が難しかった)壊れたらダンパーASSY購入ということでコストが掛かりました。

KDXはバルブとシールケースが組み込まれたロッドASSYが純正部品の最小単位なので、部品代だけで1万数千円掛かります。

なんとか修理代の総額を抑えたいと考えた方法が、別機種でありますが同サイズのオイルシールやバンプラバーを探すことですが

機種や年式によっては必ずしも見つかるわけではありませんので、これは運が良かったわけです。

レーサーは定期的にOHするのが当たり前(減衰性能が落ちてしまうため)ですが、ストリートの場合は完全に壊れてから気づくことが殆どで、リヤショックも定期的に整備することが長持ちの秘訣だと言えます。

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足りない部品を取り寄せている間に

破損したクラッチケーブルホルダーを修理します。ケーブルアウターをここに固定しないとクラッチは切れません。

辛うじて残ったホルダーに針金で縛っていたようですが、標準の仕様に戻すことが基本だと思います。

 

 

 

 

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思い切って根元から切断して、作っておいたホルダーを溶接して完了です。

時々、エンジンケースを破損して溶接修理を頼まれますが、このように単品に分解して脱脂されていないとアルミが溶け合いませんので、手間を惜しまないようにして下さい。

また、溶接で歪みますので、ケースの合わせ面やネジ穴の近くは取り付け不良になりますので、諦めてください。

 

 

 

 

 

CIMG0399.JPG凹んだチャンバーも修理します。

数え切れない打痕があり、非常に程度が悪く、鉄板も疲労していて、すぐ亀裂が入って水が漏ってしまうので、5回ほど溶接補修しながら、なんとか膨らますことができました。

しかし、相当材料が伸びてしまって、パイプの向きが変わっていると思います。

エンジン載せてから歪み修正しないと取り付かないでしょう。

凹んだ中古チャンバーには手を出さないことをお勧めします。 

 

 

CIMG0407.JPG意外とチャンバーは歪み矯正しないで取り付きましたので、終了します。

OHしたエンジンの調子を確認するため試走してみました。新しいベアリングとNEWピストンで滑らかな回転です。メカニカルノイズも減少したような感じです。

レーサーエンジンとの違いはシフトドラムのニュートラルスイッチとプライマリーギヤで駆動されるオイルポンプが追加されていて、シリンダーヘッドにサーモスタットと水温センサーが装備されているくらいで、基本的に同じ構造です。 

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