2021年3月アーカイブ

パーツリストなどでは排気系というカテゴリーで分類されているチャンバーという部品ですが
完成車組み立ての観点から、エンジン部品だと思いますか、それとも車体部品だと思いますか?
エンジンの動力性能に関わるのでエンジン補器であるか、エンジン組み立ての後、取り付けはフレームに搭載してからという順番なので車体部品と考えるか。

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これは某廃盤のチャンバーから測った諸元(スペック)をストレート図で表した模型です。

エンジン設計では、このストレート図までを図面化して、車体設計部門へ引き継ぎます。

すなわち排気系のレイアウトを決めて配管を行うのは車体設計の役割になります。
従ってチャンバーやマフラーはエンジンでなく、車体部品ということになります。

私は開発者じゃないので、オリジナルチャンバーを作るときは図面値に極力近い寸法で
製作します。
ところが、図面は設計部門と製造部門で機密管理されて部外者が見ることはできません。どうやって図面値を知りえるかというと、純正部品を実測することで知ることができます。
2輪メーカーの純正チャンバーは1日に何百台も製造できるように金型を使ってプレス成型されたものです。ブレス成型された鉄板をモナカのように張り合わせて作ったパイプの外周を計測するのですが
縦と横の数値が違っていて、真円でないことが分かります。
鉄板を金型で絞った場合、半円まで絞ると高圧で雌型に食い込んでしまい鉄板の型抜けが困難になるので若干の勾配をつけた断面形状で金型設計する必要があります。
そのため、勾配が付いた半分のパイプを張り合わせたら真円になりません。
パイプの図面値は真円で設計されているはずですが製造上の問題で図面値でなくても量産することにしているわけです。
僅かな寸法差で性能にバラツキがでる部品なので、まずは図面値どおりに作り直すことがオリジナルチャンバーを製作する理由なのであります。

余談ですがエンジンのファインチューニングで吸排気ポートの研磨を行うことがあります。
シリンダーヘッドは鋳造で製造されますがポート内部には砂をレジンで固めた中子を入れて注型します。
この中子を成形するときに金型の合わせ面に段差やバリが出ることがあります。それが製品に転写されて残るわけですが、量産では手仕上げで均されることはないので図面値にない段差やバリを除去する作業はエンジンを図面通りにするということですね。
燃焼室内のカーボン除去も、カーボンは図面にないものだから除去する。
そうやって内燃機関の効率を設計どおりのものにする目的です。

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では車体部品、チャンバーのワンオフ製作ですが
ここからは板金屋の仕事になります。

寸法測定したストレート図の模型は
中心の棒がパイプの長さを表し、
円盤がパイプの内径を表します。

そして中心の棒を曲げた形は車体に合わせてレイアウト検討の指標となるものです。
この形状でパイプの基となる展開図を作成します。

エキパイ部分のカーブですが排気ガスは流体なので、カーブを流れることによって
ストレート管に比べて損失が出ます。
だからなるべく滑らかなカーブを描くように膨らまし成型とします。
後半はカーブがないので設計通りに作りやすい巻きパイプとします。

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パイプの成型ができたので全体のレイアウトが車体に適切かどうか実車に仮組みして
確認してから、溶接作業に掛かります。


私がお客さんに提示させていただいている
型制作の中身はこういうことです。








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溶接完了しました。

車体取り付け、アンダーカウル装着確認

諸元は老舗チャンバー屋の設計なので
私の責任ではありませんが
寸法的に見て、よく回りそうです。

車種は非公開ですが、オーナーさん以外から同じ物を頼まれても作らないことにします。



上毛三山の一つ、去年の今頃は榛名山へ行ってきましたが、今回は妙義山です。
2車線の、快適とは言えないバンピーな路面の峠でした。
特に上り車線は崖側なんで、ガードレールしかないアウト側の景色にビビリながらワインディング楽しんできました。

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群馬県下仁田町にある奇岩がそびえ立つ絶景の山です。

週末は行楽のクルマが多いので平日の天気がいい日を狙って出発します。

うちからは片道90kmくらいの距離なので
愛車ZX10Rでも満タンでギリギリ往復できました。
トリップ180km地点で給油ランプついたので鳩山あたりでガソリン入れて帰りました。




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目的地は中之嶽神社。
巨大な岩柱の根本に本殿を構えた珍しい
立地の神殿です。

まさに山岳信仰を形にしたような場所です。

皮ツナギにレーシングシューズのいでたち
だったので石段上りは遠慮しておきました。
(罰当たりの私めをお許し給え)






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実は去年あつらえた皮ツナギと、ロードブーツの慣らしも目的の一つでしたが
プロテクション効果の高い牛皮ですから
普通のズボンより足があがりません。

テールカウルより足を上げるのに全力で
又を広げる必要があるので
乗車する度に体力を消耗します。

帰り路の信号で止まる度に立ちごけしそうなくらい疲れてしまいました。

2度と皮ツナギでツーリングはするまいと思いました。


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お誘いしたモトクロスの先輩とランデブー走行でした。

コーナーでは先輩の走り慣れた峠なんで負けますが
長い直線をみつけては200馬力の加速で引き離すの繰り返しで楽しみました。

バンピーな路面で車重200キロもあるものを寝かせていくことは危険行為以外のなにものでもありません。
(おそらく攻めていたらコケて崖下転落するでしょう)
自制心とスポーツ領域のバランスを取ってサイティングラップでもするように走ります。

大型バイクを購入した人の中に、時速300キロも出せる場所ないから必要ない、ということを言われることがあります。
その言葉に間違いはないですが、リッター200馬力や時速300キロは、そのバイクの最大能力を表す数値であって、それを使いきらなければならないという意味ではないと思います。
貯金1億円あったとしても全部使い切らなければならないと考える人はいないと思います。
持てるものは多くて困ることはないです。それを持った人が必要に応じて使えばよいだけなので
それは、サーキット走行であってもツーリングであっても、どのように使おうが違法でないかぎり、所有者の勝手なのであります。
酒もタバコもやらない、質素な暮らし、他に娯楽をもたないオートバイだけが楽しみで仕方ないです。

また天気のよい平日、思い立ったら発進します。

最後に作ったYZ85チャンバーは排気デバイス無しの旧型に対応した物でした。
19年にモデルチェンジ後、新型は作ってなかったのですが、マスター車お借りできたので
チャンバーを新型へ更新することになりました。

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右が試作1号ですが
旧型の低速トルクを改善したタイプに
口元だけを新型の寸法に取り換えたものです。

パイプの形状は旧型と共通なのだろうと思っていたのですが、どうやら違ったみたいです。
排気デバイス無しの旧型エンジンは高回転高出力型なので低回転域を軽視した出力特性でした。
排気デバイス追加することでコストアップも懸念されたので採用されなかったでしょう。
その出力特性は、高速コースでは有利ですがスピードレンジの低いコースでは欠点といえるものだったでしょう。

その低速域を改善した諸元のチャンバーを新型に付けたら、どうだったでしょう。
トップエンドの伸びが無くなってしまいました。
おそらく低速トルク改善した新型のエンジンには旧型より高回転型の諸元に変更したチャンバーになっているはずです。
もう一度、ノーマルと試作1号の諸元を測ってみて導き出した更新型が左側です。

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低速トルクは可変ポートによって増加させ
中高速は排気バルブが全開になったタイミングに合わせたチャンバー諸元ということで

旧型よりエキパイとコンバー(収束)コーンを短縮した設定になっています。

ロードテストの結果、低速域も十分で
加速域からトップエンドまで強力な出力を体感できました。

しかしノーマルのチャンバーも凄くいいパワーが出ていて何も不満はない感じですが、社外チャンバーに取り換えたい人は何を求めているのか聞いてみたいところです。

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ロードテストはサイレンサーもセットで交換しましたが、ついでにノーマルチャンバーにSPLサイレンサーをつけるとどんなフィーリング
なのか走ってみました。
ノーマルと比較で変わらないかと想像していましたが、この組み合わせがハッキリと分かるくらいパワー感がありました。
もしかしたら、チャンバーの仕上がりはノーマル同等でサイレンサーの抵抗が違っているのかもしれません。
あくまで田舎B級だったテストライダーの感覚なので、幸運にもこのサイレンサーを付けた人だけが体感することができるでしょう。

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競技用部品なので騒音規定は満足しなければなりません。

2mMAX法で計測しました。

ノーマル 108.9 dB/A
    109.3 dB/A

SPL 109.7 dB/A
   110.8 dB/A

器差がありますのでノーマルとの比較で
殆ど差がないことがわかります。
計測は5回くらい測って最小と最大の数値を除外したものです。

全日本シーズンに向けて去年からオーダー受けていたので、なんとか間に合わせることができそうです。