2010年12月アーカイブ

カワサキのビッグオフロードKLX450のエンジンを修理することになった。基本設計はレーサーKX450と同様に見えるが、これはセル始動用のギヤが追加されているのが特徴だ。

CIMG0161.JPG 時期が年末なので部品の発注が既に終了してしまっているが、今回は部品の交換が目的ではないので

分解組み立てに必要最小限度の部品だけ手配して全バラすることにした。

CIMG0160.JPG これが不具合の箇所

オイルドレンのネジをなめてしまったらしく、アルミで作ったネジを溶接で追加したようすなのだ。

しかし、ここにミスがあってオイル洩れが止まらないということが不具合なのである。

一箇所のオイル洩れのためにケース交換をすることは、非常に高額な出費になるので回避したい気持ちは理解できるが

不具合を解消してケースを使い続けるためには手間を惜しんではならないという例である。

 

オイルはドレン穴から排出されていてもケース内はオイルが付着した状態なので、溶接の熱でオイルが噴出してくるはずだが、アルミの溶接にオイルなど不純物が巻き込んでしまっては溶接不良となって

上から溶接棒で肉盛りしてもオイル洩れはとまらないだろう。

従って手間は掛かってもケースをばらして

内部を脱脂してからでないと完全な修理は不可能と思うのである。

ネジの修理はヘリサート挿入でよいと思われがちだが、KX系のオイルドレンはネジの途中に横穴が空いていてオイルが抜ける構造なので、ヘリサートでは横穴を塞いでしまってオイルは抜けなくなってしまうのである。

CIMG0162.JPG

エンジンを分解していく途中で不具合が発生した。

ドライブスプロケットのロックナットが緩まない。フライホイールホルダーで回り止めをしながらソケットレンチで緩めるのだが

ホルダーのアームが広がってスプロケットの山を乗り越えてしまう。明らかにオーバートルクで締まっているようだ。

 

インパクトを最強にして緩めようとするがビクともしない、ナットの角をなめてしまっては分解不可能になってしまうので、フライホイールホルダーより確実にスプロケットを固定するため、治具を製作することにした。

スプロケットの谷底とクランクシャフトの3点を固定する治具は即興で考えた。在りものの材料でこしらえる。エンジンが転がらないようにチェーンで作業代と連結させて、緩めトルクをかける。

通常のレンチでは全く緩まないのでパイプで延長して渾身の力をこめて、ようやくナットを回転することができた。部品の交換は素人でも組み立つように設計されているものだが、このようにイレギュラーな作業をするとき、経験と技術が修理作業の結果を左右するものと考えるのだ。

CIMG0163.JPG ちょっと足止めされてしまったが、ばらし終わったエンジン。

この状態で問題のクランクケースを洗浄して脱脂することができる。

オイルドレンの上にオイルポンプが装備されているので、オイルが相当残った状態なので、溶接する場合は必要な作業なのである。

このあと不具合部分の削除を行って、新しいオイルドレンを構築する作業に入る。

CIMG0164.JPG

ケースをフライスに固定してオイル洩れの部分を切削して除去する。

アルミが溶け合ってない欠陥の部分も明らかになってくる。

元の肉厚を削りすぎないように注意しながら出来るかぎり平に仕上げる。

 

 

 

 

CIMG0165.JPG

古いネジ穴をドリルで抜き取り、あたらしいネジを差し込んでTIG溶接で肉盛りする。

オイルで汚れた部分を切削してアルミの地金を露出しておけば、オイル洩れの原因となる欠陥は発生し難くなる。

目視では問題ないように見えるが、念のため洩れ検査を行う。

 

 

 

CIMG0166.JPG

これはケースの内側からオイルドレンが浸るように湯をいれた状態。

湯を入れる理由は熱でアルミが膨張するのでピンホールなど小さい欠陥があるとたちどころに湯が滲みでてくるので水洩れを発見しやすいことである。

またオイルを入れてしまっては含侵された油分を脱脂することが困難になるが

水であれば熱で簡単に蒸発するので再溶接する場合でも問題にならない。

こうしてケース分解した状態で水洩れ検査しておけば組み立てOKということになるわけである。

 

預かり車ですが、社外の捨てるには惜しい程度のマフラーがあって、付けたいとのこと。

ストレートのスリップオンサイレンサーでしたら、あまり悩まないのですが

これは別車種に合わせた設計でサイレンサーの入り口が斜めに角度がついているために取り付け位置に自由度がないことが位置決めの難しさを生んでしまいました。

CIMG0143.JPG取り付いてみると自然ですね。

最初から付いていたような位置ですが、なるべく車体やサイレンサー本体を改造しないでそのまま取り付けられるようにアダプターとジョイントパイプを製作しました。

マフラーの容積がノーマルより大きなものなので排気音は静粛で、この手の改造に異論を持つ人は少ないのではないかと思います。

即ち、このまま車検適合だということです。

 

 

CIMG0145.JPG 取り付け状態はこのような感じですが問題は取り付けバンドの位置がノーマルのステーとかなり離れていること

ジョイントパイプの前後の嵌め合い寸法が違っていること、ガスケットが付いていますが

パイプ本体がφ60.8に対して

前がφ48で後ろがφ50.0という微妙なサイズ違いで、サイズ変更してあります。

 

 

 

 

CIMG0146.JPG これが社外の中古サイレンサーでVF用ではなく、入り口が斜めになっています。

これを作り変えようと思ったのですが、ジョイントを合わせれば取り付け可能だと判断して手をつけませんでした。

バンドの取り付けも斜めに溶接されていましたので取り外して並行なものに作り変えました。

 

 

 

 

CIMG0147.JPG これは取り付けを可能にするためのアダプターとジョイントパイプです。

微妙なオフセットや角度が調整されていることが試行錯誤の跡を示しています。

ジョイントはチタンパイプφ60.8を使いましたが前後のパイプ径を変更して前側だけ角度を付ければストレートのままで取り付くことが判りましたので、このようなデザインになりました。

 

2日ほど悩みましたが、決まってないことを決めることが私の仕事です。

去年の10月から乗っているCRF150Rのピストン交換です。特にトラブルはなかったのですが

通常のメンテナンスです。ここで気がついたことがありました。

CIMG0140.JPG はずしたピストンとヘッドです。カーボンが堆積している状態が確認できます。

バルブも吸気側は焼けているだけですが排気側はカーボンの層がウエスト部分から下にかけて堆積しており、辛うじてバルブフェースが残っている状態です。

フェースの段差は認められませんのでバルブを磨いて再使用します。

ピストンヘッドもカーボンの堆積が確認できますが燃焼ガスの吹き抜けやコーティングの剥がれも少なく運転時間の割りに良好な状態といえるでしょう。

 

CIMG0141.JPG カーボンを除去したバルブと燃焼室です。

バルブフェースは擦りあわせして組みたてますが磨くときに0.01mmほど削れますので

シム調整が必要となります。

バルブや燃焼室を磨く理由は、これは内燃機関ですから熱効率を有利な状態にすることです。

そもそも機械部品ですから堆積したカーボンは図面値に無いものなので図面数値に戻す意味が一つ

アルミのシリンダーヘッドが鋳鉄ヘッドより高性能である理由は熱伝導率の違いによる冷却性能が起因しています。

内燃機関は燃焼ガスの圧力がパワーの元ですが、最高圧力を高めるだけでなく最低圧力が低い方が大きい圧力差が生まれます。燃焼室と行程容積は一定ですから燃焼圧力と燃焼ガス温度は比例関係にあります。

従ってシリンダーヘッドやピストンで燃焼温度を放熱することによって大きな熱サイクルを得られるということになります。そのため金属表面に付着したカーボンを除去することが熱効率を良好にするという効果が得られるのです。

CIMG0142.JPG シリンダーヘッド周りのメンテナンスとピストンを新品交換しましたので標準の状態でパワーチェックする予定です。

近所に歩いて行ける場所にダイノジェットを持っているお店がありますので持ち込んで測定してもらいます。

部品の寸法測定や外観である程度消耗の度合いは分りますが馬力の低下までは分りませんので、基準の馬力を知っておく必要があるのです。

組みあがったマシンで走行してみましたが

はっきり違いが分ったことはエンジン始動時にキックの重さが全然違っていて2割くらい圧縮が上がっているような感覚でした。もちろんリヤタイヤに感じるトルクも力強くなっています。新品のピストンとリングで良好な圧縮に戻ったということでしょう。

来年も同じエンジンで走りますので1年間維持していきたいと思います。

古いオートバイのリプレイスはエキスパンションチャンバーだけでは済みません。

それをマウントするためのステーも廃盤になってしまって入手困難な状態です。

年数が経つとゴムが硬化したり剥離したりしてしまうので新品に取り替える必要があるのですが

純正部品が廃止になっている場合は別機種から流用するか、新作するしかありません。

CIMG0135.JPGのサムネール画像 ラバーを焼付けするには専門メーカーに依頼するしかありませんので、現行車のラバーを組み込むマウントステーを作りました。

  アルミの丸棒から旋盤でカラーを削り出します。30個加工するのに1日掛かりです。

プレートはフライスで加工しますが30個で6時間ほど掛かりました。

このあとカラーとプレートを溶接します。

 

 

 

 

30個くらいの加工は量産とは言えませんので自動機で作ると割高になってしまうので汎用機を使ってハンドワークで加工するのです。

大体どれくらいの数量が量産と言えるか、それは全自動の加工機で製作したり、金型を製作してプレスしたりダイキャストや鍛造をしても、妥当な単価で販売できる数量ということになります。

時々、「3台くらい頼みますから安くなりますか?」というお客さんがいますが、ハンドワークを3回繰り返すだけなので安くできる理由はありません。

私は1ロット(1回に手配できる材料や加工数の大きさ)少なくとも1000個くらいから量産だと思います。

ハンドワークと量産では製造方法や設備が全く違うのです。

ホンダの狭山工場では4輪車を1日に2000台製造する能力がありました。1勤で500台、2勤で500台のラインが2つで、毎日2000台の完成車が生まれてくるのです。

4輪ですからホイールは8000個、ショックも8000個、ブレーキも8000個、しかも毎日供給できないと完成車が組み立たないことになります。部品メーカーはそれに間に合うように毎日量産し続けなくてはなりません。もちろん不良品は一つも許されません。部品メーカーの生産能力は驚異的です。

それよりも親会社は、エンジンのダイキャストから機械加工、組み立てを1日で2000台完成させますし、ボディーもプレス成形から溶接組み立てをしてホワイトボディー2000台完成させますから

その生産効率はどの部品メーカーも凌ぐでしょう。世界的に見ても輸送機器関連の製造工場としてはトップクラスなのではないかと思います。

CIMG0136.JPGのサムネール画像 溶接が完了したマウントステー

これに市販のラバーとカラーを組み込めば完成です。

チャンバーの取り付けのためジャストサイズでなければならないのですが市販のラバーマウントステーで満足な物が見つからないために製作する必要がありました。

 

 

 

 

 

標題の学徒出陣と関係ないではないかと思われそうですが、全工程で10時間以上も旋盤に向かって加工しながら思い出したことがありました。

昭和5年生まれの父親が中学生のころ、戦闘機に使う部品を製造するために旋盤に向かって働いていたことを

故郷の東予港のあたりを私が子供のころ「飛行場」と呼ばれていましたが、飛行機も飛んでないのになんで飛行場か?と疑問に思っていましたが、戦時中は戦闘機の滑走路があったということを聞きました。

兵隊に行けない学童や婦女子は兵器工場でお国のために働かされていて大変だったと思いますが私たちは、自由で恵まれているなと思うのです。職業の選択は自由ですし、休日にオートバイ遊びに出かけられるし、親たちの苦労の後で私たちは何不自由なく育てられて優雅な生活を送っているわけですから

今の苦労は昔の人から比べたら、全然生温いことなんだろうなと、考えながら旋盤に向かっていたのでした。

こうしている現在でも、一番近い隣国で戦闘態勢が行われていて、好む好まざるに関係なく強制的に巻き込まれている人々がいることを考えると

そこへ行かなくていい、法律や国家に守られながら好きなことが出来ている自分たちの立場を非常にありがたいことだと思い、この自由な時間を大切に過ごしていかなければ勿体無いと思っているのであります。

今年中に完了させるべき業務の一つ、これはエルシノアCR125のリプレイスパーツで

VMXショップホーリーエクイップさんで取り扱いの商品です。この1年間で20台分ご注文いただきましたがエルシノアの75ー77年あたりが適応車種なので、国内ではなかなか走っているのを見かけません。

どうやら欧米豪のビンテージMXマニア向けらしく、古いものをメンテナンスして使う文化があちらの方が盛んだという証拠ですね。

2輪メーカーとしては古い車種を大事に乗られては新車の販売が伸び悩んでしまうので、こういう文化には一切協力しない姿勢が見て取れます。20年過ぎた部品は次々に廃盤になってビンテージマニアを苦しめますから、現存する消耗パーツを世界中から探して取り寄せておられるようです。

CIMG0132.JPGのサムネール画像 このようなリプレイス(置き換え)パーツ製作の構想は弊社創立当時から思っていたもので、ようやく理想の形になってきたような気がします。

当時は板金鋏とハンマー、万力とガス溶接だけが手持ちの道具で鉄板でこしらえたチャンバーくらいしかできなかったので

量産ではなくて注文された数だけ一つずつこしらえるのがロスのない商売の仕方と考えたのです。

利益を追求するなら、ユニクロやニトリ、ソフトバンクに代表される大量生産で安く販売して顧客を獲得し売り上げを伸ばす方法がベストですが、自分の力だけ(お金、労力)でやろうとすると弊社のスタイルでやるしか方法がないだろうと考えています。

実は少年期になりたかった職業は刀鍛冶だったのです。

剣道を一生懸命やっていて、宮本武蔵こそが日本一の武芸者として崇拝し、侍の命とも言える刀の美しさに憧れの念を抱いていました。

刀剣は現代でも居合抜きの武具として使われたり、美術品としての価値もあり、それを製造する刀匠という職業も存在しますので、その道へ進みたくて高専の金属工学を専攻しました。残念ながら身近に刀工の道へ進むアドバイスをしてくれる人が存在せず初心が貫けませんでした。

そして現代の戦闘機はオートバイである、オートバイに関わった仕事も悪くないではないかと方向転換して現在に至っているということで、人生どうなるか分らないものです。